ドイツで暮らす日本人の方とお話ししていると、よくこんな言葉を耳にします。
「日本から着物を持ってきたけれど、着る機会がないんです」
海外へ引っ越すとき、大切に荷物へ入れて持ってきた着物かもしれません。
お母さまやおばあさまから譲り受けたものかもしれませんし、いつかまた着たいと思って、自分で選んだ一枚かもしれません。
けれど、気がつけば何年もたち、着物はクローゼットやたんすの中にしまわれたまま。
入学式もない。
お正月に神社へ行く習慣もない。
近くで結婚式があるわけでもない。
着物で参加するようなお茶会もない。
では、一体いつ着ればよいのでしょうか。
ドイツでは、日本にあった「着る機会」がなくなる
日本では、着物は行事や節目と結びついていることが多いものです。
成人式には振袖、結婚式やお祝いの席には訪問着、夏祭りには浴衣。
着る場面がある程度決まっているため、何を着ればよいのかも分かりやすく、周囲の人にも自然に受け入れられます。
しかし、ドイツでの生活は少し違います。
日本にいれば自然に訪れるはずだった行事が、こちらではほとんどありません。日本関連のイベントがあったとしても、年に一度あるかどうか。
そして、日本で着るときよりも人の目を集めるため、少し勇気が必要だと感じる方もいるでしょう。
その結果、
「特別な理由もないのに着物を着るのは変かもしれない」
「少し頑張りすぎに見えるかもしれない」
そんなふうに考えるようになります。
けれど、着物を着るために、必ずしも特別な機会を待つ必要はないのかもしれません。
着物を着ること自体が、その日の特別な出来事になってもよいのです。
着物は、特別な日のためだけのものではない
すべての着物が、式典や正式な行事のためにあるわけではありません。
小紋や紬なら、友人とランチをする日に着てもよい。
美術館へ行く日、アフタヌーンティーを楽しむ日、庭園を散歩する日、季節の写真を撮る日、文化イベントへ出かける日に着てもよいのです。
大きなイベントである必要はありません。
誕生日のランチも、立派な機会です。
紅葉を見に行く日も、着物を着る理由になります。
着物が好きな人と会う日も、十分に特別です。
家で和菓子と抹茶を用意する日に、少しだけいつもと違う装いを楽しむのも素敵です。
着物は、人生の大きな節目にだけ着るものではありません。
何でもない一日を、心に残る一日に変えてくれるものでもあります。
海外にいるからこそ、自由に楽しめる
日本で着物を着るとき、たくさんの決まりが気になることがあります。
格は合っているだろうか。
季節に合った柄だろうか。
帯の組み合わせは正しいだろうか。
誰かに間違いを指摘されないだろうか。
もちろん、正式な場では大切な知識です。
けれど、ドイツで日常的に着物を楽しむ場合には、もう少し自由であってもよいのではないでしょうか。
周囲の多くの人は、着物の細かな決まりを知りません。
目に映るのは、美しい生地や色、柄、そして全体のコーディネートです。
だからといって、着物の決まりに意味がないわけではありません。
知識があることで、着物をより深く理解し、自信を持って楽しめるようになります。
ただし、その知識が「間違えてはいけない」という不安になり、着物を着ること自体を遠ざけてしまうのは、少しもったいないことです。
気軽なお出かけの日なら、誰かの理想に合わせて完璧に着る必要はありません。
自分の好みや、訪れる場所、ドイツの季節に合わせて、自分らしく楽しんでよいのです。
最初は、小さなお出かけから
日本の外で着物を着て出かけることに、不安を感じる方もいるでしょう。
人に見られるのが恥ずかしい。
自分の着付けに自信がない。
周囲がカジュアルな服装の中で、自分だけ目立ちすぎるのではないか。
最初から長時間のお出かけを計画する必要はありません。
まずは、自分が安心できる場所を選んでみてください。
友人とカフェへ行く。
日本のお店へ立ち寄る。
美術館を見たあと、少しだけ散歩する。
それくらいの短いお出かけで十分です。
最初は、動きやすいカジュアルな着物と、慣れている帯結びを選ぶと安心です。
天気や移動手段を事前に確認して、完璧にしようと無理をしないことも大切です。
何度か外へ着て出るうちに、少しずつ自然に感じられるようになります。
視線を感じることはあるかもしれません。
けれど、その多くは好奇心や憧れからくるものです。
ドイツでは、着物の美しさだけでなく、その背景にある文化や職人技に興味を持ってくれる人も少なくありません。
声をかけられたり、褒めてもらったりしたことが、その日の素敵な思い出になることもあります。
私たち自身で、着物を楽しむ場所をつくる
海外に住んでいるからこそ、日本文化の中で大切にしたいものが、以前よりはっきり見えてくることがあります。
日常の中で着物を見る機会がなくなったとしても、自分の生活から着物をなくす必要はありません。
着る機会がないのなら、私たち自身でつくることができます。
着物で集まる日。
季節を楽しむランチ。
小さなお茶会。
美術館へのお出かけ。
デュッセルドルフやドイツの街を歩く一日。
日本に昔からある正式な行事ではないかもしれません。
けれど、着物を着て、知識を交換し、写真を撮り、同じ興味を持つ人と出会う。
それもまた、十分に意味のある時間です。
着物の専門家である必要はありません。
たくさんの着物を持っている必要もありません。
着付けが完璧になってから参加しなければならない、ということもありません。
着物は、実際に着て、動いて、誰かと一緒に過ごすことで、少しずつ身近になっていきます。
では、「着る機会」とは何でしょうか
次に、クローゼットの中で眠っている着物を見て、
「着ていく場所がない」
と思ったときには、少しだけ問いを変えてみてください。
「この着物を着て、どこへ行きたいだろう?」
誰かが用意してくれる特別なイベントを、待ち続ける必要はありません。
日を決めて、友人と会う。
お茶を一服用意する。
美しい場所へ出かける。
着る機会が先にあるとは限りません。
着物を着ることで、私たち自身がその機会をつくることもできるのです。
着物を着るきっかけを、一緒につくりませんか?
Biyoriでは、デュッセルドルフ近郊のノイスで、気軽に着物を楽しむための「日和きもの会」を開催しています。
着物を持っているけれど、着ていく場所がない方。
一人で着て出かけるのは、少し勇気がいる方。
ドイツで、着物が好きな人と出会いたい方。
着付けにまだ自信がなくても、着物の知識が少なくても大丈夫です。完璧に着ることよりも、実際に着物を着て、一緒に過ごすことを大切にしています。
季節に合わせたコーディネートを楽しんだり、お茶を飲みながら着物について話したり、ときには着物で街へ出かけたり。
日本にいた頃とは少し違う、ドイツでの新しい着物の楽しみ方を、一緒につくっていけたらと思っています。
「着る機会がない」と感じているなら、次の「日和きもの会」を、久しぶりに着物を着るきっかけにしてみませんか?
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